映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

ある男(平野啓一郎)

平野啓一郎著「ある男」を読んだ。 単行本の帯に 「愛したはずの夫はまったくの別人だった」とあって、読む前は「どういうことだろう 。面白そうだな」と、あまり深く考えずに思っていた。そして読み終わった 今、 別人という言葉が、なんとなくしっくりこな…

正欲 (朝井リョウ)

朝井リョウ著「正欲」を読んだ。 深く静かな衝撃を受け、考えさせられた。 この社会にとって想定内のマイノリティと想定外のマイノリティがある、ということは、これまでほとんど意識していなかった。 「好み」という言葉があるけれど、好きだと思う気持ちは…

星を掬う (町田そのこ)

町田そのこ著「星を救う」を読んだ。 親子や家族の物語が、人生の物語でもあるのは、一人一人の生き方を描かなければ親子や家族の関係を描き出すことはできないからなのだろう。 「母親」という存在も、母親である前にひとりの人間なのだ、ということがこの…

パッチギ

2005年公開の井筒和幸監督作品「パッチギ」を観た。 話題になっていた公開当時から、いつか観ようと思っていたが、もう17年も経っていたことに驚く。 舞台は1968年の日本で、主人公は高校生。この映画を観て思い出したことがある。 いまから30年以上前のこと…

望み

2020年公開の堤幸彦監督作品「望み」を観た。 犯罪がストーリーの軸になっている映画はたくさんあり、これまでにいくつか観てきたが、大抵の場合、犯人は誰なのか、犯行はどう展開したか、という点に興味が集中するように思う。或いは、犯罪の意味や動機につ…

エイプリルフールズ

2015年4月1日公開の映画「エイプリルフールズ」を観た。 観終わったとき、やけに充実感があり、登場人物たちのこれからを心から応援したくなるような清々しい気持ちだった。 タイトルから推測して、コメディかなと勝手に思っていたが、総じて人間ドラマだっ…

82年生まれ キム・ジヨン (チョ・ナムジュ)

チョ・ナムジュ著、斎藤真理子訳「82年生まれ キム・ジヨン」を読んだ。 読み進めるうちに、あれ、これってノンフィクションだっけ?と一瞬混乱し、解説を見て小説であることを確認してしまった。 最初から最後まで、共感し通しで読んでいた気がする。この本…

誰も知らない夜に咲く(桜木紫乃)

桜木紫乃作「誰も知らない夜に咲く」を読んだ。少し前に(数ヶ月前だろうか)ラジオ番組の朗読でこの作家の、たしか「冬ひまわり」という短編を聞いた。(冬ヒマワリ、又は冬向日葵、かもしれない)その物語が心にしみて、以前読んだこの作家の「ホテルローヤ…

旅する練習 (乗代雄介)

乗代雄介著「旅する練習」を読んだ。 風景描写の多い本だった。タイトルに「旅する」とあるように、目的地までの旅の道程を軸としていて、旅の中で目にする景色が次々と描かれていた。 そのことと関係があるかどうかはわからないのだか、私にとってこの本は…

K との再会 (おろかなチホ)

今日はちょっといつもと違う投稿をしてみようと思う。「心淋し川」を読んで、人は皆物語の中を生きているのだと改めて感じたせいか、自分の身に起こったことで、忘れられないことを文章にしてみようと思い立った。とはいえ劇的な出来事でもなんでもないのだ…

心淋し川 (西條奈加)

2020年下半期直木賞受賞作品「心淋し川」を読んだ。 時代小説を読むと、人が人を思う気持ちや人生のままならなさは、いつの時代も変わらずにあって、だからこそ物語が生まれるのだな、と思う。 何の変哲もない暮らしの中で、ある日突然、巻き込まれるように…

星の子 (今村夏子)

今村夏子著の「星の子」を読んだ。 以前、デビュー作の「こちら、あみ子」や、短編集の「あひる」も読んでいて、ひょっとするとこの作家は誰も書こうとしなかったことを、或いは書こうとしても書けなかったことを、書いているのかもしれない、と感じていた。…

さいはてにて ~やさしい香りと待ちながら~

2015年公開、永作博美主演の映画「さいはてにて」をみた。 主人公は行方不明の父親の帰りを待つために、一人小さな漁港の小屋に移り住む。そこで近所に暮らす母子家庭の子どもたちと関わっていくのだが、子どもたちの母親は仕事のためとはいえ不在になりがち…

格闘するものに○ (三浦しをん)

三浦しをんさんのデビュー作「格闘するものに○」を読んだ。 言わずと知れた人気作家である。ご本人がラジオのインタビューで語っているのを聞いたのだが、就職活動の際に出版社を受けたのがデビューの発端だとのこと。筆記試験に含まれていた作文の欄で披露…

ボクたちの交換日記

監督・脚本、内村光良の2013年公開の邦画「ボクたちの交換日記」を観た。原作は、放送作家・鈴木おさむの小説「芸人交換日記 ~イエローハーツの物語~」 コンビのお笑い芸人を目指していた高校生の主人公ふたりが、いつしかそれぞれの道で、それぞれの生活を…

百万円と苦虫女

2008年公開で蒼井優主演の「百万円と苦虫女」を観た。 DVDのジャケット裏にある粗筋を読み、アルバイトで百万円を貯めて家を出た女の子が、貯金が百万円になると次の街に引っ越す、ということを繰り返す話なのだなと理解し、それが明るく楽しく軽快な旅であ…

誘拐ラプソディー (荻原浩)

2001年に刊行され、2004年に文庫化された荻原浩の小説「誘拐ラプソディー」を読んだ。 文庫の裏表紙に「笑って泣ける」というようなことが書かれていたが、全くその通りで期待に違わず楽しめた。 犯罪に巻き込まれたり、犯罪が絡んだ小説はよくあるけれど、…

万引き家族

是枝監督の「万引き家族」を観た。 公開当初のテレビスポットを目にしていて、「盗んだのは、絆でした」というコピーを覚えていた。覚えていたからこそ、その意味を私は字面で捉え、おそらくこういう話なのではないかと、粗筋、というにも粗すぎる物語の漠然…

海の見える理髪店 (荻原浩)

荻原浩さんの直木賞受賞作「海の見える理髪店」を読んだ。 短編集であるこの本の表題作「海の見える理髪店」を、以前、ラジオの朗読で耳にしていた。それが、この作家に触れた最初の時で、印象があまりにも鮮烈だった。 主な登場人物は理髪店の店主と客の二…

マチネの終わりに (平野啓一郎)

平野啓一郎著「マチネの終わりに」を読んだ。 この作品は2015年から2016年まで毎日新聞に連載されたもので、昨年、映画化されている。 序文で、主人公の二人に実在のモデルがいることが明かされ、その上で著者は「他人の恋愛ほど退屈なものはないが、彼らの…

コーヒーが冷めないうちに

2018年公開の邦画「コーヒーが冷めないうちに」を観た。 以前、書店で「4回泣ける」と書かれたポップと共に平積みされていたし、テレビスポットも目にしていて、気になっている作品だった。 過去に戻るという状況を題材にした小説や映画はたくさんあるけれど…

ゴールデンスランバー (伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎作、ゴールデンスランバーを読んだ。 初出は2007年で、2008年の本屋大賞と第21回山本周五郎賞を受賞している、ということを今回文庫を手にとって初めて知った。 これまで、この作家の作品は映画になったものを観るばかりで、振り返ってみると小説…

カメラを止めるな

2017年公開の映画「カメラを止めるな」を観た。 公開当時、話題になっていたことは知っていたが、監督&俳優養成所の生徒たちによる作品だとは知らず、今回観た後で初めてそれを知った。とはいえ、そのこと自体は私には関係のないことで、知らないまま、変に…

神様 (川上弘美)

川上弘美の短編集「神様」を文庫本で読んだ。 何年も前に、作家の保坂和志氏が「川上弘美の真鶴を読め」と、どこかで発言していたのを見て、真鶴をはじめ、彼女の作品ばかりをある時期読み続けたことがある。何作読んだかは覚えていないけれど、「神様」は今…

キツツキと雨

2012年公開の映画「キツツキと雨」を観た。主演は役所広司と小栗旬。 映画を撮るなどということは、一般人にとっては間違いなく非日常だけれど、映画監督や映画制作を仕事にしている人にとっては日常でもあるだろう。誰かの日常がほかの誰かにとっては非日常…

紙婚式 (山本文緒)

山本文緒の短編集「紙婚式」を読んだ。 初出は22年前だけれど、これを読む限り、結婚生活が夫や妻にもたらす変化というのは、時代によらず、ある程度一貫性がありそうだ。いや、結婚生活が夫や妻に変化をもたらすのではなく、共に暮らすことによって、もとも…

アヒルと鴨のコインロッカー

2007年公開の映画「アヒルと鴨のコインロッカー」を観た。原作は伊坂幸太郎。 巧妙で根の深い仕掛けが、それも物語全体をひっくり返すような大仕掛けがあって、最後にはすべて腑に落ちるけれど、なんて悲しい話なのだろうと思った。悲しみの底に、何かふわふ…

アカペラ (山本文緒)

山本文緒の「アカペラ」を読んだ。 表題作を含む中編三作品が収められていて、どれもとても面白かった。 小説を読んだ後、感想をきちんと言葉で表現するのはなかなか難しい。「面白かった」だけで伝わることがあるとしたら、この人は退屈せずに楽しく読んだ…

ワンダー 君は太陽

2018年公開のアメリカ映画「ワンダー 君は太陽」を観た。 子どもが中心の物語なのだけれど、子どもたちに起こる出来事やその生活を通して、大人、子どもという言葉ではくくれない「人」そのものが描かれていたように思う。 日頃、人はみなそれぞれで、一人一…

団欒 (乃南アサ)

乃南アサ著の短編集「団欒」を読んだ。 面白かった。 いろいろな家族がいて、家族ごとにいろいろな事件が起こる。故意の殺人や不慮の殺人も起こるのだが、それに関わる人々の言動がいかにも人間臭く、あり得ないと思えるほど身勝手な家族もいて、所詮人間な…