映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

キラキラ共和国 (小川糸)

 小川糸の「キラキラ共和国」を読んだ。
「ツバキ文具店」の続編となるこの作品、図書館に予約して順番が回ってくるまでに、およそ一年かかったということは、今なお相当な人気のようだ。
 ツバキ文具店の店主である主人公、鳩子の入籍の報告から始まり、妻となり、家族を持つ身となった彼女の生活や考え方の変化が、結婚前から持ち続けている彼女の性質や精神を土台に描かれている。なんというか、この主人公は妖精か何かではないかと思うほど、澄んだ心の持ち主に見えるのは、私という読み手の心がすさんでいるからだろうか。妖精、などというと、か弱く小さい存在のイメージかもしれないけれど、鳩子はか弱くなどなく、いつも堂々としている印象だ。それは多分、自分自身に対して潔いからだろう。周りの人の意見や気持ち、もっと広い範囲でいえば常識という名の世間体、そういうものに気を配ってばかりいると、いつの間にか自分に嘘をつくことに慣れてしまったり、或いは自分が自分に嘘をついていることに気づかなくなってしまうこともあるように思う。少し前にどこかで「自分に嘘をつけば、周りの人にも嘘をついていることになるのだ」という文を目にして、はっとした。相手を思いやったつもりでも、実のところは不誠実とも言える行動を続けていれば、いつか歪みがあらわになったり、積み重ねたはずのものが音をたてて崩れるようなことにもなりかねないのだ。
 人を傷つけてもいいとは言いたくないが、自分が傷つくことを恐れる人ほど、相手を傷つけまいとするのかもしれない。そもそも、自分の気持ちを伝えて話し合えば理解されたのに、伝える勇気がなかっただけだとしたら、とんでもなくもったいないことに思える。
 おそらくは、傷つけることも傷つくことも恐れない誠実さ、それを持てる人が、潔く生きていけるのだろう。

キラキラ共和国