映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

長いお別れ (中島京子)

 中島京子の「長いお別れ」を読んだ。
 アルツハイマー認知症を発症した父親が人生を閉じるまでの10年間を綴った物語で、父親を支える家族の物語だった。と言っても、病気に焦点が当たっている感じはなく、オムツや排泄物が登場しても、家族の大変さが悲愴感としては伝わってこなかった。家族の中に「認知症になどなってほしくなかった」というような気持ちがないことはないだろうと思うのだが、それ以上に「病気になってもお父さんはお父さん」とでもいうような姿勢が満ちていたからかもしれない。
 認知症の夫(父親)と献身的な妻、成長した3人の娘たちとの関わりが、物語の中心なのだが、時々、家族は知るよしもないような他人と父親との接触が描かれていて、それがあることで、この小説がより身近に、現実にあり得る話として立ち上がっていた気がする。 


長いお別れ