映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

永遠のとなり (白石一文)

 白石一文著「永遠のとなり」を読んだ。
 この作家の10冊目の本で2007年に刊行されている、と解説にあった。同じく解説に「人生の意味を真正面から問いかける思索的な作風」とあり、私自身、物事に意味付けをしたがる性分のせいか、そうした作風がとてもしっくりきたように感じる。
 主人公は40代後半の男性で、離婚とうつ病を経験したばかりの彼は、故郷の福岡に戻ってひとり暮らしをしている。その街には幼なじみでもある親友が住んでいて、二人の交流や生活が描かれているのだが、その交流や生活を通して、主人公の考え方や価値観が色濃く深く映し出されていた。
 これまで、小説にはストーリーを楽しむものと、描写、つまりは作家の表現力を楽しむものがあるな、と思っていたけれど、もう一つ、登場人物の掘り下げられた考え方や価値観に、あるいはそれが変化していく過程に触れることを楽しむ、という読み方があることに気づいた。過去にも登場人物の考え方に感心したり共感したり考えさせられたりしながら、それを楽しんだ小説はいくつもあったはずなのに、今回改めて気づかされたように、思う。 
 この本のなかで特に印象的だったのが、主人公の「幸せなんてグリコのおまけみたいなもんやと思うとる。あった方がよかけどないならないでも別に構わんとよ」という言葉だ。ここ一年ほど、「幸せはなるものではなく気づくもの」とか、「自分の幸せを追ってください」などという言葉に出会ううちに、幸せとはそんなに追い求めたり気づいたりしなければならないものなのだろうか、と疑問に感じ始めていた。自分が不幸ではないことを知っているし、仕事があって今日もご飯が食べられて自分の足でどこにでも行けるというような小さな幸せならたくさん持っていることも分かっている。これ以上幸せを追ったり、幸せだ幸せだと騒がなくても別にいいではないか、という本音が私の中にあったせいで、上記の言葉に、やけに共感できたのだろう。
 幸せがないならないで構わないなんて、投げやりに聞こえたり、やせ我慢のように思われたりするかもしれないけれど、この主人公の言葉は「大事なんは生きてるちゅうことだけで」に続いている。
永遠のとなり