映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

女たちのジハード(篠田節子)

 1997年の直木賞受賞作品、篠田節子の「女たちのジハード」を読んだ。
 読み始めてすぐ、目の前に現れたのは、90年代のバブルが弾けた頃のOLたち。OLという言葉だけで、すでに時代が透けて見えるようだ。そうか、20年も前の話なんだな、と感じたときは、ほんの少し、多分一瞬、読み進めるのを躊躇うような感覚があった。それは、読後に「昔はこうだったなぁ」という感想しか残らないのでは、と危惧したせいかもしれない。でもそんな考えはまったく的外れだった。
 文庫の裏表紙にある通り、これは中堅保険会社に勤める5人のOLたちが、それぞれに踏まれても虐げられても逞しく自分の人生を切り開いていく物語だった。5人が5人とも年齢も性格もバラバラで、本人にしか生きられない本人の人生を生きていく。その人にしか生きられない、というのは、言い換えればその人にしかもたらされない、ということだと思う。この本の中の女性たちは、確かに自分の人生を自分で選んでつかみとっていった。でも、その選択肢は驚くほど少ないように感じる。現実の人生でも同じで、生まれついた環境や遺伝子が作り出す個性によって、人生の選択肢はかなり絞られてくる。それは、無理だと思って諦める、というのとは、次元が違うことのように感じる。 そして、待っているだけでは始まらないけれど、捨てることや選びとることを決断して進んだ道も、その機会を与えられればこそだろう、と思う。
 どう捉えようと、誰にとっても人生は一度しかない。たった一つの自分の人生を、少し距離を置いて眺め、温かく見守るような気持ちを持てたとき、自分の人生を受け入れることができた、と言えるのかもしれない。

女たちのジハード