映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

アカペラ (山本文緒)

 山本文緒の「アカペラ」を読んだ。
 表題作を含む中編三作品が収められていて、どれもとても面白かった。
 小説を読んだ後、感想をきちんと言葉で表現するのはなかなか難しい。「面白かった」だけで伝わることがあるとしたら、この人は退屈せずに楽しく読んだのだな、という程度のことだろう。 まぁ、たった一言でそれだけ伝われば充分なのかもしれない。
 私は本当に好きな作品に出会うと、それについての感想や何かをあれこれ述べるのを控えたくなる。そして、そういう人は案外多いのではないかと勝手に思っている。好きな作品について、なぜ詳しく語りたくないのかを考えると、以前、信頼していた読書好きの友達に「最近は誰それを読んでいる」と、話したとき、軽く笑いながら「私はその人は読まない」と切り捨てられたことがきっかけのような気もするし、もともと、宝物は人に見せてはいけない、誰かに見られたらそれだけで傷がつく、と思って生きてきたからのような気もする。
 人生はままならず、ままならなさも人それぞれだけれど、だからこそ小説を求めたりするのだろうか、などと今回は考えた。
 この本の中の三作は、私には、今どきの言い方をすれば、ツボだったのかもしれない。特に三作目「ネロリ」の中には、なぜかはわからないが、心を鷲掴みにされた二行があった。10年以上も前に書かれた物語だけれど、出会えて良かった。

アカペラ

アカペラ