映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

紙婚式 (山本文緒)

 山本文緒の短編集「紙婚式」を読んだ。
 初出は22年前だけれど、これを読む限り、結婚生活が夫や妻にもたらす変化というのは、時代によらず、ある程度一貫性がありそうだ。いや、結婚生活が夫や妻に変化をもたらすのではなく、共に暮らすことによって、もともとあった二人の間の齟齬にお互いが気づくたけなのかもしれないけれど。
 この本には8編の短編が収められていて、それぞれに全く無関係の8組の夫婦が登場する。どの夫婦も一見普通の夫婦なのだが、どの夫婦も当人にしかわからない感情と事情を抱えている。つまりは、普通なんてあってないようなものなのだ。と、常々感じていることが、自分の手の中で具現化されている感覚を味わった直後に、この本の解説の中にこんな文章を見つけた。
 ❮普通の人や平凡な生活を描きながら「普通の人」や「平凡な生活」など何の実態もないのだと暴いてみせる。恐怖と共感で、ページをめくらずにはいられなくさせる。❯なるほど、そういうことかとやけに納得しながら読み進めると、少し先にはこんな文章が。
 ❮‐‐夫は既に私の一部である。他人ではないので会っても淋しさは紛れない。淋しさを紛らわしてくれるのは「他人」であることを私は知った。‐‐ この文章に私はぶちのめされた。❯
 同感。私もこの文章にはかなりの衝撃を受けました。解説とは、野暮なものであるような気がしていたけれど、読後の感想を友人と語り合っているかのような感触を与えてくれることもあるのだな、と初めて思った。

紙婚式

紙婚式