映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

マチネの終わりに (平野啓一郎)

 平野啓一郎著「マチネの終わりに」を読んだ。
 この作品は2015年から2016年まで毎日新聞に連載されたもので、昨年、映画化されている。
 序文で、主人公の二人に実在のモデルがいることが明かされ、その上で著者は「他人の恋愛ほど退屈なものはないが、彼らの場合はそうではなかった」と述べていて、読んでみると、なるほどそうだろうとすっかり納得できる。
 この本を恋愛小説と呼ぶことに違和感はないけれど、そこに描かれていたものは、あまりにも広い奥行きを持った、それでいて針の穴ほどのほんの一点に焦点を定めたような、二人の生き方だったように思う。
 お互いに最愛の人であり、その人との時間を心底欲していて、社会的にもなんの落ち度もない二人が、気づいた時には引き裂かれ、その後の人生を望まなかったはずの形で送ることになるというのは、理不尽で残酷なことだ。そして
、ふと現実を振り返れば、理不尽も残酷も当たり前のように世の中に収まっている気がするけれど、だからこそ主人公ふたりを通して、こんなにも潔白な想いが、人の心には生まれ得るのだと知ったことは、私の目に映る世界をいくらか変えたように思う。たとえ明日からの私の日常に、何の変化もないとしても。
 物語に出会うというのは、そういうことなのだろう。
 

マチネの終わりに DVD通常版(DVD1枚組)

マチネの終わりに DVD通常版(DVD1枚組)

  • 発売日: 2020/05/27
  • メディア: DVD