映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

誰も知らない夜に咲く(桜木紫乃)

 桜木紫乃作「誰も知らない夜に咲く」を読んだ。
少し前に(数ヶ月前だろうか)ラジオ番組の朗読でこの作家の、たしか「冬ひまわり」という短編を聞いた。(冬ヒマワリ、又は冬向日葵、かもしれない)その物語が心にしみて、以前読んだこの作家の「ホテルローヤル」も面白かったなぁと思いだした。

 「誰も知らない夜に咲く」も短編集だが、どれも有りそうで無さそうな、無さそうで有りそうな物語で、おそらく自分の身には起こらないことだし、自分の日常とは別世界の話だったりもするのに、全編を通してなぜか他人事とは思えない感触が残った。それは「感情移入できた」とか「リアリティがある」とか、そういう言葉で説明できるものではない気がしていて、私としてはやはり「他人事とは思えない感触」としか言いようがないものだ。

 より抽象的な表現になるのかもしれないが、別の言い方をすると紫乃さんの作品を読むと、心を湿らされる感じがする。潤うというのとは違い、胸の内側が湿って、ほんの少し重さを増すような、厚みを持つような、そんな感じだ。 この本は何年も前に出たものなので、これ以降の桜木作品も未読のものがあると思うと読むのが楽しみだ。