映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

本 小説

ある男(平野啓一郎)

平野啓一郎著「ある男」を読んだ。 単行本の帯に 「愛したはずの夫はまったくの別人だった」とあって、読む前は「どういうことだろう 。面白そうだな」と、あまり深く考えずに思っていた。そして読み終わった 今、 別人という言葉が、なんとなくしっくりこな…

正欲 (朝井リョウ)

朝井リョウ著「正欲」を読んだ。 深く静かな衝撃を受け、考えさせられた。 この社会にとって想定内のマイノリティと想定外のマイノリティがある、ということは、これまでほとんど意識していなかった。 「好み」という言葉があるけれど、好きだと思う気持ちは…

星を掬う (町田そのこ)

町田そのこ著「星を救う」を読んだ。 親子や家族の物語が、人生の物語でもあるのは、一人一人の生き方を描かなければ親子や家族の関係を描き出すことはできないからなのだろう。 「母親」という存在も、母親である前にひとりの人間なのだ、ということがこの…

82年生まれ キム・ジヨン (チョ・ナムジュ)

チョ・ナムジュ著、斎藤真理子訳「82年生まれ キム・ジヨン」を読んだ。 読み進めるうちに、あれ、これってノンフィクションだっけ?と一瞬混乱し、解説を見て小説であることを確認してしまった。 最初から最後まで、共感し通しで読んでいた気がする。この本…

誰も知らない夜に咲く(桜木紫乃)

桜木紫乃作「誰も知らない夜に咲く」を読んだ。少し前に(数ヶ月前だろうか)ラジオ番組の朗読でこの作家の、たしか「冬ひまわり」という短編を聞いた。(冬ヒマワリ、又は冬向日葵、かもしれない)その物語が心にしみて、以前読んだこの作家の「ホテルローヤ…

旅する練習 (乗代雄介)

乗代雄介著「旅する練習」を読んだ。 風景描写の多い本だった。タイトルに「旅する」とあるように、目的地までの旅の道程を軸としていて、旅の中で目にする景色が次々と描かれていた。 そのことと関係があるかどうかはわからないのだか、私にとってこの本は…

心淋し川 (西條奈加)

2020年下半期直木賞受賞作品「心淋し川」を読んだ。 時代小説を読むと、人が人を思う気持ちや人生のままならなさは、いつの時代も変わらずにあって、だからこそ物語が生まれるのだな、と思う。 何の変哲もない暮らしの中で、ある日突然、巻き込まれるように…

星の子 (今村夏子)

今村夏子著の「星の子」を読んだ。 以前、デビュー作の「こちら、あみ子」や、短編集の「あひる」も読んでいて、ひょっとするとこの作家は誰も書こうとしなかったことを、或いは書こうとしても書けなかったことを、書いているのかもしれない、と感じていた。…

格闘するものに○ (三浦しをん)

三浦しをんさんのデビュー作「格闘するものに○」を読んだ。 言わずと知れた人気作家である。ご本人がラジオのインタビューで語っているのを聞いたのだが、就職活動の際に出版社を受けたのがデビューの発端だとのこと。筆記試験に含まれていた作文の欄で披露…

ボクたちの交換日記

監督・脚本、内村光良の2013年公開の邦画「ボクたちの交換日記」を観た。原作は、放送作家・鈴木おさむの小説「芸人交換日記 ~イエローハーツの物語~」 コンビのお笑い芸人を目指していた高校生の主人公ふたりが、いつしかそれぞれの道で、それぞれの生活を…

誘拐ラプソディー (荻原浩)

2001年に刊行され、2004年に文庫化された荻原浩の小説「誘拐ラプソディー」を読んだ。 文庫の裏表紙に「笑って泣ける」というようなことが書かれていたが、全くその通りで期待に違わず楽しめた。 犯罪に巻き込まれたり、犯罪が絡んだ小説はよくあるけれど、…

マチネの終わりに (平野啓一郎)

平野啓一郎著「マチネの終わりに」を読んだ。 この作品は2015年から2016年まで毎日新聞に連載されたもので、昨年、映画化されている。 序文で、主人公の二人に実在のモデルがいることが明かされ、その上で著者は「他人の恋愛ほど退屈なものはないが、彼らの…

コーヒーが冷めないうちに

2018年公開の邦画「コーヒーが冷めないうちに」を観た。 以前、書店で「4回泣ける」と書かれたポップと共に平積みされていたし、テレビスポットも目にしていて、気になっている作品だった。 過去に戻るという状況を題材にした小説や映画はたくさんあるけれど…

ゴールデンスランバー (伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎作、ゴールデンスランバーを読んだ。 初出は2007年で、2008年の本屋大賞と第21回山本周五郎賞を受賞している、ということを今回文庫を手にとって初めて知った。 これまで、この作家の作品は映画になったものを観るばかりで、振り返ってみると小説…

神様 (川上弘美)

川上弘美の短編集「神様」を文庫本で読んだ。 何年も前に、作家の保坂和志氏が「川上弘美の真鶴を読め」と、どこかで発言していたのを見て、真鶴をはじめ、彼女の作品ばかりをある時期読み続けたことがある。何作読んだかは覚えていないけれど、「神様」は今…

マドンナ (奥田英朗)

奥田英朗の短編集「マドンナ」を読んだ。 どの話も中間管理職の40代サラリーマンが主人公で、どの話も面白かった。 表題作「マドンナ」の中で、何というか、考えさせられた箇所がある。夫婦が言い合いになり、妻が夫に「この独裁者、弱いものいじめ、能力主…

桜雨 (坂東眞砂子)

坂東眞砂子著「桜雨」を読んだ。 文庫のカバーに、この作品で1996年の島清恋愛文学賞授賞とある。その翌年には別の作品で直木賞を授賞した作家だ。 「桜雨」は、一言で言えば男女の三角関係を綴った物語だった。とはいえ、一人の画家を女性二人が奪い合うの…

時雨のあと (藤沢周平)

藤沢周平の「時雨のあと」を読んだ。 以前、保坂和志に傾倒して彼の小説ばかり読んでいた頃に、保坂氏の「藤沢周平を読め」という言葉をどこかで見たか聞いたかしたことがあり、それ以来ずっと気になっている作家だった。とはいえ今回手に取ってみて初めて、…

ツナグ (辻村深月)

辻村深月の「ツナグ」を読んだ。 この作家の直木賞受賞作「鍵のない夢を見る」を数年前に読んでいて、物語の意外な展開に引き込まれながら、存分に楽しんだ記憶がある。 「ツナグ」も、意外な展開というか周到な真実というか、読み進めば進むほど読者を引き…

女たちのジハード(篠田節子)

1997年の直木賞受賞作品、篠田節子の「女たちのジハード」を読んだ。 読み始めてすぐ、目の前に現れたのは、90年代のバブルが弾けた頃のOLたち。OLという言葉だけで、すでに時代が透けて見えるようだ。そうか、20年も前の話なんだな、と感じたときは、ほんの…

永遠のとなり (白石一文)

白石一文著「永遠のとなり」を読んだ。 この作家の10冊目の本で2007年に刊行されている、と解説にあった。同じく解説に「人生の意味を真正面から問いかける思索的な作風」とあり、私自身、物事に意味付けをしたがる性分のせいか、そうした作風がとてもしっく…

長いお別れ (中島京子)

中島京子の「長いお別れ」を読んだ。 アルツハイマー型認知症を発症した父親が人生を閉じるまでの10年間を綴った物語で、父親を支える家族の物語だった。と言っても、病気に焦点が当たっている感じはなく、オムツや排泄物が登場しても、家族の大変さが悲愴感…

キラキラ共和国 (小川糸)

小川糸の「キラキラ共和国」を読んだ。「ツバキ文具店」の続編となるこの作品、図書館に予約して順番が回ってくるまでに、およそ一年かかったということは、今なお相当な人気のようだ。 ツバキ文具店の店主である主人公、鳩子の入籍の報告から始まり、妻とな…

東京タワー / オカンとボクと、時々オトン (リリー・フランキー)

2005年初版のリリー・フランキー作「東京タワー オカンとボクと、時々オトン」を読んだ。 筆者が自分の体験を振り返って書いたという小説で、具体的な出来事を通して、お母さんへの想いはもちろん、リリーさんの中の広大な宇宙が見事に描かれていたように思…

寝ずの番 (中島らも)

中島らもの短編集「寝ずの番」を読んだ。 最初に「寝ずの番」が1から3まで、三部作で登場するのだけれど、咄家の話で、「1」で師匠が死に、「2」で兄弟子が死に「3」で師匠の奥さんが死んだという話だったので、近しい人がそんなにポンポン亡くなるなん…

エイジ (重松清)

重松清著の「エイジ」を読んだ。 中学2年生の男子が主人公の物語で、「人が子どもから大人へと成長する過程を描いている」のかもしれないけれど、読んでいる間は、そんなふうにはまるで感じていなかった。読後に内容を振り返れば、そういうことになるけれど…

ショートカット (柴崎友香)

柴崎友香の「ショートカット」を読んだ。この作家の作品は、数年前に読んだ「春の庭」に続いて二作目になる。 「春の庭」を読んだ時には私が気づかなかった柴崎さんの持ち味、のようなものが、今回はうっすらとかもしれないけれど見えたように感じている。 …

まゆみのマーチ (重松清)

この作家の自選短編集・男子編「卒業ホームラン」に続き、自選短編集・女子編「まゆみのマーチ」を読んだ。 「卒業ホームラン」の読後に述べた通り、重松清作品の温かさや、人の心の、というか人そのもののというか、掘り下げ方にはやはり引き込まれるものが…

卒業ホームラン (重松清)

重松清の短編集「卒業ホームラン」を読んだ。 この作家の作品はデビュー作の「ビフォア・ラン」、直木賞を受賞した「ビタミンF」のほか「流星ワゴン」「きみの友だち」を読んだことごある。どの作品もいつも、文章そのものが、というのか、作品全体がと言っ…

ふたりの名前 (石田衣良) ~NHKラジオ~

昨日の深夜のNHKラジオで、石田衣良の短編「ふたりの名前」を聞いた。短編という形態だからこそ、この物語の魅力が際立っているように感じた。 幾つかの手痛い別れを経験済みの、大人の恋人同士が、自分のものには自分の名前(イニシャル)を書く、というルー…