若くして亡くなったプロ棋士の生涯を描いたノンフィクション小説を映画化した作品だった。
羽生義治と互角に渡りうほどの才能の持ち主で、10代の頃から頭角を表し、メキメキと力をつける彼だが、幼いころから難病を抱えていた上に膀胱癌を発病してしまう。
手術をしなければ余命は3か月と宣告されたとき、麻酔をすると脳が鈍るから、「将棋、弱くなりたくないんで」麻酔なしなら手術をしてもいい、と言った場面が忘れられない。羽生義治と初めて二人きりで、ひっそりと酒を呑む場面もまた、印象的だった。「負けたくない」それがすべてだと言い切る二人がその晩交わした、一見抽象的な約束は、将棋という魔物にとりつかれた天才同士の、真摯な約束だったに違いない。それが果たされる場面には心底、胸を打たれた。
天才と比べても仕方ない、などという言葉が言い訳にしか聞こえないような、見終わったとき、自分の人生を振り返らずにはいられない、そんな作品だった。