ことりとその歌声を愛してやまない兄弟の物語だった。
兄は10歳のときに、弟以外の誰にも理解できない言葉しか話さなくなる。そして、両親が亡くなったあとは、兄が52歳で亡くなるまで兄弟二人きりで暮らすのだが、慎ましく内向的な生活の中で、小鳥の存在だけが明るさと豊かさを添えていた。
小鳥の声に耳を澄ましたり、小鳥の様子を、つまりは小鳥の命をじっと見つめる時間を大切にすることのほかには、こんなに変化のない、住んでいる町から出ることもないような人生が、実際あるものだろうかと思ったが、少し考えてみると私自身の人生こそが内向的で自分の町から出ないようなものではないかと気がついた。若いときには何度か国内旅行をしたけれど、行き先は限られていたし、趣味と言えるほどのものもなく、成り行きで仕方なく結婚してからは日々家事を繰り返すばかりだった。
しかし、誰にとってもこう生きなければならない、ということはなく、自分の生活に自分で納得できればそれでいいのだろう。こんな風に思えるのは、ここ数年で趣味は読書と言えるようになったことや、最近はDVDで、ではあるが、映画をよく観ているせいもあるのだろうか。人生は他者に認めてもらうためにあるのではない、と思う。そういえば「あん」という映画の中の言葉に「私たちは、この世を見るために、聞くために生まれてきたなら、何にもなれなくても生きる意味はある」というのがあった。
人生の捉え方も、人それぞれで構わないに違いない。
- 作者: 小川洋子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
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