映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

妻が椎茸だったころ

この作家が8年前に直木賞を受賞した「小さいおうち」の文庫本を、表紙に惹かれて買ったのを覚えている。すでに映画化されたあとで、表紙には、うつむき加減の松たか子の横顔と、それを少し離れた所から黒木華が見つめている写真が使われていて、その純朴で従順で芯の強そうな感じがやけに印象的だったのだ。
読んでみると「小さいおうち」は、気高さのない凛とした上品さ、のようなものが最初から最後まで漂っていて、とても読み心地が良かった。それなのに、これまでこの作家の他の作品を読まなかったのはなぜだろう。
「妻が椎茸だったころ」は図書館で見つけ、タイトルが気になって手に取った。短編集で、5つの話はどれも着地が巧妙だった気がする。ゾクリとしたり、意外な種明かしに納得したり、ほのぼのと温かい気持ちになったりするのだが、そこに導かれるまでに気高さのない凛とした上品さが漂っているせいで、余計に着地点が際立っているのだと言えるかもしれない。
心地よく作品世界に引き込んでくれて、物語の終わりを終わりだと気づかせないような本だと思う。

妻が椎茸だったころ

妻が椎茸だったころ