映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

最果てアーケード (小川洋子)

 短編集の形をしているけけれど、すべてが一つのアーケードに纏わる話である。と、述べた途端に、いや長編小説として書かれたのではと思えてきた。どちらであろうと、ストーリー性に頼らない小川洋子の世界にまた出会えた。
 この作家の描写の前では、筋書きなんて必要ないような気がするけれど、物語はちゃんと流れていく。おそらく人には見落とされがちな、ひっそりと息をしている時間や空間を、どうしてこんなに細やかに掬い上げることができるのだろう。
 小川洋子の物語には、死が登場する確率が高い、と思う。「貴婦人A の蘇生」も「猫を抱いて像と泳ぐ」も「ブラフマンの埋葬」も最後に
主人公が死んでしまう。(ブラフマンは主人公ではないのかもしれないが) 主人公以外の死も、いろいろな作品に出てくる。「沈黙博物館」では何人もの人の死がでてくるが、その一つ一つが丁寧に取り上げられていた。この本の中にもいくつかの死が登場する。こうして振り返ってみると、どの死も、悲しみではなく気高さのようなものに彩られていた、という気がする。だからだろうか、死が生の一部だということを、感じさせてくれる。     
最果てアーケード (講談社文庫)