映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

卒業ホームラン (重松清)

 重松清の短編集「卒業ホームラン」を読んだ。
 この作家の作品はデビュー作の「ビフォア・ラン」、直木賞を受賞した「ビタミンF」のほか「流星ワゴン」「きみの友だち」を読んだことごある。どの作品もいつも、文章そのものが、というのか、作品全体がと言った方がいいのか、とても優しい。そのことに、この短編集を読んでみて改めて気づいた。物語の内容はそれぞれみんな違うし、母子家庭やいじめなど、一見寂しかったり悲しかったりするような状況が語られていたとしても、なぜだかいつも、日だまりに守られながら読んでいるような気持ちでページをめくっていたように思う。主人公や登場人物が、強さと弱さを表裏一体のように合わせ持っているのはとても自然なことで、同じように温かさと冷たさや、頑固さと柔軟さ、明るさと暗さも、同時に持っているのが人間で、それは矛盾ではないのだと教えてくれているような気がする。家族がテーマの作家だと言われているかもしれないが、家族や友だちを題材にして人間を描いているなぁ、と思わされる。
 この本の収録作品で、気に入ったものを一つ選ぶとしたら「サマーキャンプへようこそ」だろうか。アウトドア活動などしたこともない父親と息子がキャンプに出かけ、まるで馴染めず途中で引き上げてしまう話だ。「一つ選ぶなら」と言ってしまったけれど、「エビスくん」も捨てがたい。

卒業ホームラン: 自選短編集・男子編 (新潮文庫)