この作家は短編集を何冊か読んだことがあったが、長編は初めてだったかもしれない。
短編から受けたイメージとして、都会的な、あるいは知的な、または神秘的な大人の女性が登場するような印象があり、どの作品もスマートな雰囲気を纏っていたように思っていたのだが、「間宮兄弟」の主人公は、二人とも女性にまったくモテない兄と弟だった。
外見も冴えないし、仕事や趣味においても特に目立たって人の気を引くような要素はないのだが、つまりスマートな雰囲気などこの兄弟からは感じられないはずなのだが、それでもやはり江國香織の世界がそこにはあった。
兄弟の暮らしを、日常を、間近に見ているような気持ちで、こんな風に自分も暮らしてみたいと思ったりしながら、いつまでもこの小説の世界にとどまっていたいと望みながら読んでいだ。地味といえば地味で、普通といえば普通の(普通以上にモテない二人てはあるのだが)生活が、こんなにチャーミングに描かれているのは素敵だと思う。
小説を読むのは、現実逃避だったり非日常を求めるといった側面もあるけれど、求めているものは、実は日常の中に潜んでいるのだと教えてくれる小説もあるのだということに、改めて気づかされた。
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