映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

ふくわらい (西加奈子)

 数年前から気になっていた作家で、芥川賞に輝いた作品を含め、著作はたくさんあるのだが、巡り合わせでこの「ふくわらい」を最初に読むことになった。
 芥川賞作家はその年の話題になるので、姿を目にする機会もあり、その容貌や作品のタイトルから、無意識のうちに「西加奈子の紡ぐ物語」を勝手にイメージしていたようだ。イメージといっても、ひどく大雑把なぼんやりとしたものではあったのだけれど、この小説はそのぼんやりとしたものをはっきりと塗りつぶしてしまった。
 子どもの頃に人肉を食べたことのある若い女性が主人公で、育った境遇も平凡なものではないのだが、物語全体に独特の空気が流れていたように感じるのは、そうした設定のせいではないような気がする。では何のせいかと考えても、答えはでない。ただ、個性の強い登場人物たちが、強い個性を強調されることなく、当たり前に暮らしている様子が描かれている中に色濃く映しだされるものがあった。それはもしかすると、「生」そのものだったのかもしれない。
     

ふくわらい (朝日文庫)

ふくわらい (朝日文庫)