最近は落ち着いて本を読む時間が取れなかったこともあり、今夜のNHKラジオの、「ラジオ文芸館」を楽しみにしていた。
読まれたのは山際淳司作「たった一人のオリンピック」
最初に、この作品がノンフィクションであることが告げられた。つまり実話で、タイトル通り、たったひとりでオリンピックへの出場を目指した若者の話だと知り、冒頭から全身を耳にして聞き入った。たったひとりでオリンピックを目指したというのだから、この若者がとてつもなく熱い人かというと、そうでもないような、どこか冷めた目で自分の人生を見ているような印象を受けた。
名のある進学校で東大を目指して二浪し、三年目も東大には合格せず入った私大で留年しそうになったとき、彼はオリンピックで金メダルを取ろうと思い付くのだから、もともとは大学受験を失敗したという挫折から、金メダルへの挑戦が生まれたのだろう。人生を変えたいと強く思うのは、自分自身に対して「こんなはずではなかった」と、どうしようもなく感じるときなのではないかと思う。「周りの人たちは昨日と同じように歩いていて、その中で立ち止まれば、それだけで人は一匹狼だろう」という作者の言葉がなんだか沁みた。たとえ孤立しようと、自分で人生を変えたいと思って行動に移すことは、悪いことではないはずだ。その行動に必要な精神力や冷静さも、この人は存分に持っていたと思える。結果的に5年以上も、オリンピックで戦うための練習を自分ひとりで、コーチにも頼らず続け、予定通り代表にも選ばれたのだから。
そして、代表として出場するはずだったオリンピックに、日本は不参加を決める。
ノンフィクションというジャンルに、また、山際淳司という作家にも、にわかに興味が湧いている。