映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

乙女ちゃん (佐野洋子)

 佐野洋子さんを初めて知ったのは、やはり「100万回生きたねこ 」だった。「100万回生きたねこ」は私にとって再読回数最多の本ではないだろうか。もう30年以上前だけれど、買って帰った数日後には友達に「10回読んで10回泣いた」、とかなんとか言った覚えがある。 それからあとも長年に渡って繰り返し読んだし、他の作品にも触れてきた。
 それなのに、というべきか、だから、というべきか、エッセイは読んだことがあっても、ずっと絵本作家だと思っていて、物語だけの本を出していたことを最近まで知らなかった。
 この「乙女ちゃん」には29 の話が収まっていて、どれも読んでいるとあざやかな絵が浮かんでくる。小説家の書いた小説だって場面が映像となって浮かんでくるものは多いけれど、というか、場面を想像しながら読むのが普通の読み方かもしれないけれど、佐野さんの作品は浮かんでくる絵がやけに力強いのだ。言葉の使い方からくるものなのか、内容そのもののせいなのか、どちらもあって初めて成り立っ力強さなのか。もしかすると佐野さんの生き方そのものが滲み出ているだけなのかもしれない。力強いし、生々しいとも言えそうな気がする。動物が服を着てしゃべっていたり、現実にはあり得ないことや想像もできないような場面を通して、生きることの生々しさを感じさせるなんて、この人は一体どういう感受性の持ち主だったのかと思ってしまう。本当にすてき。 
 私も、自分なりに力強く、生々しく、生きてみたいものだ、と思わせてくれる。
 この本にはあとがきがついていた。あとがきらしく、力強い絵は登場しないのに、これもまた楽しくおもしろく、そして深かった。
乙女ちゃん―愛と幻想の小さな物語