なんだか不思議な物語だった。
伊藤亀吉という人の、特別な人生が語られているようでいて、読み終えたときは、誰もがイトウであるような、誰もがイトウの娘であるような、誰もがイトウの娘の娘であり、イトウの娘の娘の娘であるような、そんな感覚が起こったのが不思議だった。もっと言えば、誰もが久保耕平であり、赤堀であり、田中シゲルなのだと思える。こんな言い方では、人には何も伝わりそうにないが。
この本に出てきた言葉で、思わず書き留めたものをここにも残しておく。
「どんな言葉を使うかは、どんな人間として扱われるかを決定する」
「おまえは一生私を憎むだろう。だか、自分自身のことはいつか許さなくてはならない」
「あれから私は一度も、私にあのような思いをさせる女性に出会っていない」
「誰のようにもなる必要はない。自身の不可思議な人生を生きるのだ」
誰の人生もきっと、不可思議なものに違いない。