2011年公開の三宅喜重監督作品「阪急電車」を観た。
冒頭に主人公のモノローグで「人は皆、それぞれの思いを抱えて生きている」というようなことが語られる。その言葉には聞き終わらないうちから、二度三度と頷いた。誰にだって不安や不満や悩み、そういうものの一つや二つ、あるいは三つや四つ、あるに違いない。でも、大抵の不安や不満や悩みには原因があって、原因があるから解決への道も現れるように思える。一つ消えればまた別の悩みが浮上してくるのかもしれないが。
本当に途方に暮れるのは、原因がわからないときや、原因に自分が関われないとき、気がついたら目の前に受け入れがたい事実があったとき、そういうときではないだろうか。虐待する親の下で暮らしている子どもなとは、それだと思う。虐待ではなくても、自分の力ではどうにもならない現実に打ちのめされることもあるだろう。そうしたときの思いは不安や不満、悩みというより、悲しみや嘆きと呼ぶ方かふさわしいのかもしれないし、どうにも名付けられない「思い」かもしれない。そして、たとえ悲しみや嘆きの中にあっても、他のどんな思いの中にあっても、人は生きていかなければならないものらしい。
喜びや希望、信頼と呼べるような「思い」も当然あって、人々はそれぞれに様々な思いを抱えているし、人ひとりの中に、色々な思いが存在してもいる。
一つだけはっきりしているのは、自分の中のそれらの思いに大小はあっても、他者のものと大きさや重さを比べることはできないということだ。おそらくは、これができないから、誰もが孤独なのたろう。
孤独な者同士だからこそ、ふれあったり寄り添ったり、分かちあったりできるのかもしれない。
この映画は、そうしたふれあいを見せてくれた気がする。
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