映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

怒り

 2016年公開の李相日監督作品、「怒り」を観た。
 後半は、終わりに近づけば近づくほど、誰が犯人なのかばかり気になって、こいつだろう、いややっぱりこっちか、まさかあいつなのか、と犯人探しに翻弄されてしまい、愛する人を信じられるか、とか、愛した人が殺人犯だったら、というような倫理的、心理的な視点を忘れていた気がする。しかし、単なるサスペンスではなかった。
 人と人が信じ合うことは難しいのだろう。一見、信頼関係が成り立っているように見えても、何か重大な局面に晒されたとき、どんな行動に出るかは、誰にとっても自分自身でさえ想像できないものかもしれない。心から信じられる相手がいるというのは幸せなことに違いないと思いつつ、では信じるとは一体どういうことなのかと考えると、はっきりとは言葉にならないのがもどかしい。そして、信じようとか、信じられる、と言っているうちは、信じていないのだということも感じる。
 人間なんてちっぽけなものかと思っていたけれど、それも一面に過ぎず、人の心の深さは計り知れないという見方も、できそうに思えてくる。
    
怒り DVD 通常版
怒り (下) (中公文庫)