映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

ゴールデンスランバー (伊坂幸太郎)

 伊坂幸太郎作、ゴールデンスランバーを読んだ。 初出は2007年で、2008年の本屋大賞と第21回山本周五郎賞を受賞している、ということを今回文庫を手にとって初めて知った。
 これまで、この作家の作品は映画になったものを観るばかりで、振り返ってみると小説という形のまま触れたことがなかった。そして映画として観た彼の作品はどれも、私にとっては心情に訴えてくるものが多かった。ストーリー展開も当然気にはなるし、それを軸に話に引き込まれていくのだけれど、最終的に伝わってくるのは人と人の繋がりとか思いとか、そういったものだったと思う。物語は心理や人物を描くために必要な設定なのだ、と言っては言い過ぎだろうか。(そういう場合もあるだろうし、そうでない場合もあるだろう。)
 「ゴールデンスランバー」も映画化されているが、それを観ないまま今回小説を読んでみた。すると、なにしろストーリー展開に強く引き付けられた。次に何が起こるのか、主人公はどうなるのか、ハラハラしながら先が気になってたまらず、どんどんページをめくっていった。ということは、とても面白い本だったのだろう。とっくに映画化されていることも知らずに、これこそ映画で観てみたいなどと思いもした。でも個人的には、なんとなく、どこか物足りなさがあったのは、登場人物たちの心情を色濃く感じ取る時間を持てないまま読み終わってしまったからかもしれない。
 それは私に感じ取る余裕がなかったからだと思う。あとから考えると、友人との関わり、親子の情、思い出を共有する今は遠い誰か、通りすがりの相手など、人と人の繋がりも個人個人の心情や人間性も絶え間なく描かれていたのに、出来事の流れを追うことに夢中で、よく噛んで味わうべきものを噛まずに飲み込んでいたのかと思うと残念である。しかしその時は次の皿にはどんな料理がのっているかを早く知りたくて急いでしまったのだ。自分がそんな読み方をすることもあるのだと分かったのだから、それを収穫と思うことにしよう。
 映画であれば、ページをめくるスピードは自分では決められないし、登場人物の表情や声、背景となる景色も向こうからやってくる。そう思うと、過去に観た伊坂幸太郎作品を原作とする映画たちは、映画化に最大限成功していたのではないかと思える。映画制作になどまるっきり関わったことのない身分で言えたことではないけれど。

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

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ゴールデンスランバー [DVD]

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  • 発売日: 2010/08/06
  • メディア: DVD