映画と本と言葉たち

観た映画や読んだ本についての一人よがりの感想などを、勝手気ままに綴っています。

本 小説

乙女ちゃん (佐野洋子)

佐野洋子さんを初めて知ったのは、やはり「100万回生きたねこ 」だった。「100万回生きたねこ」は私にとって再読回数最多の本ではないだろうか。もう30年以上前だけれど、買って帰った数日後には友達に「10回読んで10回泣いた」、とかなんとか言った覚えがあ…

空飛ぶタイヤ (池井戸潤)

同じ作家ばかり読んでいないで、たまには毛色の違ったものを、と考えながら図書館の中を歩いていたらこの本が目にとまり、これは大ヒットしたエンターテイメント小説のはず、と思って手に取った。 文庫本としては厚みがあり、しかも上・下巻の二冊に分かれて…

さようなら、コタツ (中島京子)

面白いタイトルだなと思っていた。 2003年にデビューした作家で、この短編集の作品のほとんどが2004年初出となっているから、かなり初期の頃の作品だ。 最初に短い前書きがついていて、短編集だろうと長編だろうと、物語のプロローグとしてではなく、小説に…

佐野洋子の動物ものがたり (佐野洋子)

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({}); 初版は2018年10月29日、つまり最近だけれど、収録されている6篇のうち5篇は1989年に「図書新聞」に連載されたものとの断り書きがある。連載時のタイトルは「佐野洋子の動物図鑑」。 登場するのは動物ば…

墨東綺譚 (永井荷風)

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({}); 明治から大正、昭和と活躍した名のある作家なので、一度読んでみたいと思って借りてきたのたが、文体、というのだろうか、言葉遣いというか言い回しというか、最後の方は漢文の引用もあって、私にとって…

イトウの恋 (中島京子)

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({}); なんだか不思議な物語だった。 伊藤亀吉という人の、特別な人生が語られているようでいて、読み終えたときは、誰もがイトウであるような、誰もがイトウの娘であるような、誰もがイトウの娘の娘であり、…

家守綺譚 (梨木香歩)

数年前に一度読み、簡単に言うと「最高」と感じた記憶がある。小説なのだろうけれど、おとぎ話のようなファンタジーのような、それでいて現実的な手触りのある不思議な、でも読んでいると妙に落ち着いた、温かい心持ちになる本だ。 この本の中の好きなフレー…

ことり (小川洋子)

ことりとその歌声を愛してやまない兄弟の物語だった。 兄は10歳のときに、弟以外の誰にも理解できない言葉しか話さなくなる。そして、両親が亡くなったあとは、兄が52歳で亡くなるまで兄弟二人きりで暮らすのだが、慎ましく内向的な生活の中で、小鳥の存在だ…

りんごの花咲くころ (石坂洋次郎)

本棚の片隅にひっそりと収まっていた本を読んでみた。 初版は、昭和50年12月30日 そして、昭和54年9月20日 7版発行、とある。 おそらく30年以上前に購入した文庫本だるう。タイトルに見覚えはなく、自分で買ったのかどうか判然としないが、忘れているだけで…

均ちゃんの失踪 (中島京子)

失踪した均ちゃんの家に泥棒が入った、という状況から始まる表題作を筆頭に、「のれそれ」「彼と終わりにするならば」「お祭りまで」「出発ロビー」と四つの短編が続くのだが、登場人物と時間の流れを共有していて、全体で一つの作品になっている。 最初から…

女中譚 (中島京子)

「ヒモの手紙」「すみの話」「文士のはなし」の三つの短編が収められた本で、どれも、すみという名のばあさんの語りであり、そのばあさんの若いころの話だった。満州事変、戒厳令、戦争、昭和、といった言葉が当たり前のように出てきて、そう遠くないように…

ふくわらい (西加奈子)

数年前から気になっていた作家で、芥川賞に輝いた作品を含め、著作はたくさんあるのだが、巡り合わせでこの「ふくわらい」を最初に読むことになった。 芥川賞作家はその年の話題になるので、姿を目にする機会もあり、その容貌や作品のタイトルから、無意識の…

嫁をやめる日 (垣谷美雨)

図書館で見かけて思わず手に取った。 初めて名前を見る作家だったが、タイトルに限りない親近感を覚え、これは読まなければと思ったのだ。 嫁姑の確執が描かれているのか、モラハラ夫が出てくるのか、それとも予想もしない展開なのかと、親近感の裏側で怖い…

ツバキ文具店 (小川糸)

この本は、友人が大好きな本だと言って紹介してくれたので、ぜひ読んでみたいと思っていた本てす。世の中の情報に疎い私は、NHKでドラマ化されたことも知らずにいましたが、やはり相当話題になった本のようで、図書館で予約したときはかなりの人数が順番待ち…

被写体の幸福 (温又柔)

確か2日前だと思う、NHKの「朗読の時間」にまた出会えた。読まれたのは、おんゆうじゅう作(温又柔と書くことを後で知った)「被写体の幸福」だった。台湾人の女の子が主人公で、幼い頃の祖父との関わりと、成長して日本に留学してからのこととが描かれていて…

沈黙博物館(小川洋子)

今考えてみると、この作家の作品には、舞台が一体どこなのか、はっきりとは判らないものが多かったように思う。 この「沈黙博物館」もそうだった。どこかの村ではあるのだが、日本なのか外国なのか、どちらでもあるようでどちらでもないような、不思議な空間…

間宮兄弟 (江國香織)

この作家は短編集を何冊か読んだことがあったが、長編は初めてだったかもしれない。短編から受けたイメージとして、都会的な、あるいは知的な、または神秘的な大人の女性が登場するような印象があり、どの作品もスマートな雰囲気を纏っていたように思ってい…

にじいろガーデン (小川糸)

家族の物語であり、人生や恋愛を描いた物語でもあった。 出会いというのは、自分の意志でコントロールできるものではないと思う。友達や恋人なら、誰でもいいわけじゃなく、気の合う相手や好きな人を選んで付き合っているのかもしれないけれど、それにしたっ…

ママたちの下剋上

深沢七郎を読んでみようかと思い、図書館で「深沢」の棚を見ていて目にとまった。タイトルからして、一体どんな話かと思ったのだが、何か劇的な展開があるわけではなく、小学校受験に執着する母親たちのことを、子どもはまだいない主人公の目を通して書かれ…

妻が椎茸だったころ

この作家が8年前に直木賞を受賞した「小さいおうち」の文庫本を、表紙に惹かれて買ったのを覚えている。すでに映画化されたあとで、表紙には、うつむき加減の松たか子の横顔と、それを少し離れた所から黒木華が見つめている写真が使われていて、その純朴で従…

異邦人(アルベール・カミュ/窪田啓作訳)

たまには外国文学にも触れてみたいと思いながら、普段はなかなか手を出せずにいるのだか、一昨日図書館に行ったとき、カミュの.「異邦人」を借りてきた。薄かったのと、最初の数ページが読み易かったのとで、読んでみようと思えた。全ての文をすんなり理解で…

青年のお礼

NHKラジオをつけていたら朗読のコーナーがあり、乃南アサの「青年のお礼」という短編を聞いた。朗読を聞くという形で小説を鑑賞するのも、味わい深いものがある。聞き心地の良さはアナウンサーという語りのプロが読み聞かせてくれているからだとは思うが、自…

貴婦人A の蘇生

一昨日、小川洋子著「貴婦人A の蘇生」を読み終わった。 小川洋子の描く世界は、いつも穏やかで優しく感じるが、それは描かれている世界そのものが穏やかで優しいから、ではないのかもしれないと気づいた。 どこかにある日常を描くとき、作者はそれを表現す…

山本周五郎中短篇秀作選集1

文学賞に「山本周五郎賞」というものがあることを知って以来、いつか山本周五郎の作品を読んでみようと思っていた。それが実現したのが2~3年前だったろうか。 「さぶ」と、ほかにいくつかの短篇(藪の陰など)を読み、なんて美しい小説を書く人なのだろうと胸…